訪問歯科診療

3. 医科歯科連携の必要性や口腔内環境が全身的な健康に及ぼす影響について

    医科歯科連携の必要性
    訪問診療(在宅医療)において、医科歯科連携の必要性や口腔内環境が全身的な健康に及ぼす影響については、10年ほど前からずっと言われ続けています。

    しかし、ここ数年でしっかりとした連携を経験または実感されて先生方はどの程度存在するのか、大きな疑問があります。もちろん従来から、臨床現場では「お口のケアは大事」と云う認識は、数々の看護師さんの業務に含まれていますが、実践レベルとしては十分ではなかった点もあるように思います。

    また、医科歯科の連携と云っても、患者様から要請があったり、口の中にひどい炎症が生じている場合に、かかりつけの内科医から歯科医師会を通じ、近隣の歯科医院を受診すると云う程度であると思います。

    一方で、こちらが把握していないところで「いつのまにか歯科が介入していた」と云うケースもあるようです。例えば、皮膚科などでも同様の例があるようですが、患者様のご家族が自己判断で歯科医院(あるいは地域の歯科医師会に連絡をして、要請を受けた歯科医がとりあえず自分の専門である口の中の問題を解決すると云うパターンが、一般的によくあるケースだと思います。

    しかし、このようなケースでは、歯科医師は患者様の全身状態に関する情報がほとんどないままで、診療を行っていることになります。在宅医療が必要なほどの前肢疾患をお持ちの患者様に対して、きちんとした診療情報すら把握していない状態で医療行為を行うと云うのは、本来であればあってはならないことであるのではないかと考えます。

    口腔ケアの重要性に対する認識が医科領域で高まっている中、地域医療と云う枠組みでも、患者様のQOL低下を防ぐと云う大きな役割が歯科に求められるようになってきました。

    既に始まっている高齢化社会、高齢化時代と云う環境の中での、医科・歯科の在り方について考える共同して考えていく事の重要性を考えます。

    医科歯科お互いの顔が見える関係
    医科歯科の連携において、まずはお互いの顔が見える関係作りが必要となります。現実問題として私たちのお手伝いを必要としている患者様はたくさんいらっしゃるわけですから、できるところから地道に始めていく以外に方法はありません。

    例えば、「訪問診療に取り組みたい」と考えている歯科医は同じ地域で訪問診療に取り組んでいる医師にコンタクトをとり、食事やミーティングの席を設けるなどしてコミュニケーションを図った上で、一つの事例に取り組んで成果を出す、と云うプロセスです。

    医院での診療とは異なり、訪問診療では完全な治療よりも患者様の状況を見極めた上で「こう対処したほうがよさそうだ」と遂次判断しつつ、応用的な処置を施すケースが多くなると思います。そして、その判断の土台になるのが、患者さんの全身状態に対する認識であると思います。つまり、医科が把握している情報を歯科も共有し、両者が同じ治療方針を持ち、

    また治療だけでなくケアにおける連動も図る、と云う密接な関係性がなければ、本当に意味のある医科歯科連携にならないものと考えます。訪問診療を行う医師は、疾患の種類によらず心身各部の診療の求めに応じ、継続して患者さんの生命と生活に責任を持ち続けることが求められます。

    例えば、皮膚科の専門医でなくても、内科医が寝たきりの方の褥瘡性潰瘍(床ずれ)の処置を行うことはよくあることです。しかし、同じように口腔内についても対応できるかといえば、かなり分野が異なると思いますし、専門的な教育も受けていないので不可能と思います。

    従って、このような場合は、歯科の専門家にきちんとコンサルテーションするところまだが訪問医の責任となるのではないでしょうか。そしてそのためには、どの地域にどのような専門性を持った歯科医がいるのかを内科医等が把握し、必要に応じて患者さんを紹介できるだけの信頼関係とネットワークを構築する、と云うことが必要と思います。

    訪問医がこれまでに歯科に紹介してきた在宅の患者さんたちは、逆に言えば訪問医の紹介がなければ歯科診療を受けられなかった方々でもあります。外に出られない在宅の患者様と、歯科医院から外に出ない歯科医は、そのままの状態では出会うことがでないものと思います。

    要介護者数は600万人とも言われています。その大部分は歯科の力を必要としているのではないでしょうか。今後益々のより深い、緊密な連携関係作りが必要であると感じています。

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    武内 光晴

    武内 光晴

    武内デンタルクリニック 院長 歯科医師

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