口腔癌の治療
口腔内にある癌が小さく、また表在性である場合や頚部リンパ節に転移が無い場合、高齢や全身状態から手術が適当でない症例には放射線治療を行うことはあるものの、原則として外科的切除が基本となります。
切除範囲は先述したPET-CTおよびMRIから原発巣および転移リンパ節を明確にして切除することになります。舌を代表とする口腔癌は基本的に肉眼で腫瘍を確認できる位置に原発巣が存在するので、ヨード生体染色を用いた方法が有用です。
ヨード生体染色は異型上皮を描出し、悪性病変および悪性化の可能性のある病変を識別することができる優れた診察法で、食道癌など上部消化器領域の悪性病変の診断に広く用いられている補助診断法です。
ヨード生体染色の原理は、口腔粘膜には通常、多量のグリコーゲンが含有されているため、ヨード・グリゴーゲン呈色反応により粘膜上皮は茶褐色に染色されます。一方、癌細胞は有酸素下でも、ミトコンドリアの酸化的リン酸化よりも解糖系でATPを産生するWarburg効果を持つことが知られています。
解糖系は酸化的リン酸化に比べ、ATP産生速度は速いが効率が極めて悪い。その結果、癌細胞は細胞内で大量のグルコースを消費することになります。この性質は、おそらく癌細胞が有する幹細胞性に由来するものと推測されていますが、この性質を利用した検査法がFDG-PETです。
ヨード生体反応もこのWarburg効果を利用しており、癌細胞の細胞質内にグリゴーゲンが維持できず、ヨード・グリゴーゲン呈色反応に対して不染色帯と呼ばれる部分を呈することで悪性病変を明示することができます。
実際の手術におけるヨード生体染色法の手順等につきましては、改めて記述したいと思います。