フッ素の働きで再石灰化
世界保健機構(WHO)は、1992年に「先進国の小児ウ蝕減少の最大の要因は、フッ化物配合の歯磨剤の普及」と報告し、また信頼できる臨床研究をまとめたシステマティックレビューでは「フッ化物配合の歯磨剤のウ蝕予防効果は20~30%」とされています。
前回までのお話で「フッ素が再石灰化を促進するなら、再石灰化で歯が大きくならないのはなぜですか」と云う質問を頂いた事がありました。
歯のエナメル質表面にはミネラルイオン(カルシュウム[Ca]イオンやリン酸[PO4]イオン、水酸化物[OH]イオン)が吸着してアパタイトが成長するための成長点が存在しています。ここに唾液に含まれるリン酸イオンやカルシュウムイオンが結合するとアパタイトの結晶が成長します。
しかし、実際の口の中では、成長点に唾液中のミネラルイオンが結合することはありません。なぜならば、唾液中には、歯の表面への親和力がカルシュウムイオンなどより、はるかに高い「リンタンパク質」と言われる物質があるためです。この物質が常に歯の表面を覆っているために、唾液中のリン酸イオンやカルシュウムイオンなどが成長点に結合することができず、エナメル質表面ではアパタイトが成長しないのです。
もし、リンタンパク質が存在しなければ歯の表面にアパタイト結晶が成長し、歯はどんどんと大きくなってしまうかも知れません。
エナメル質の下層にできた初期ウ蝕(ホワイトスポット)が、フッ素の働きで再石灰化が促進され、初期ウ蝕が回復することはご存知の事と思います。初期ウ蝕は、エナメル質の表層が残り、その下が脱灰して軽石のようにスカスカになった状態を指します。プラークの酸によって歯の表層に開けられた極めて微細な穴を通って、アパタイト中のミネラルイオンが抜け出ることで出来た病変です。
しかし、リンタンパク質はこの穴(トンネル)を通過することが出来ないため、初期ウ蝕の病変内は、再石灰化を阻止するリンタンパク質が存在しない世界なのです。
口腔内が中性の再石灰化しやすい環境になると、唾液中のリンタンパク質はサイズが大きく、この微細な穴を簡単に通って病変内に入り、脱灰により小さくなったアパタイトの表面の成長点に結合してアパタイト結晶が成長し再石灰化が進行します。
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